ホタテの稚貝とセロリの白ワイン蒸し

高校生の時分、私の通う学校ではファームステイが卒業旅行だった。 私の母親の宮崎にある実家が肉牛で生計を立てており、一年か二年に一度、夏をそこで過ごしていた身としては、その高校時代のファームステイはたいそう慣れ親しんだ卒業旅行になったのであった。

 

そのファームステイ先でご馳走になったのが、ホタテの稚貝のバター焼きである。近年は関東のスーパーでもホタテの稚貝をよく見かけるようになり、夕方の閉店間際、駆け込みで半額シールの貼られたものを買うのが常となった。

 

ホタテの稚貝は、その見た目から嫌厭する人が多いらしい。 稚貝には白く長い、硬いものが貝の側面にこびりついており、それが寄生虫か何かを連想させるかららしい。 ただ、そう、まごうことなくあれは寄生虫である。 正確に言うならば、あれは寄生虫の巣で、あの中に寄生虫がいる。

 

しかし、ホタテの稚貝を食すようになってから早十年。 それから一度もホタテの稚貝で腹を壊したことはついぞないし、その無意味な嫌悪から、あんなに安価で美味しいホタテのスープをパンにつけて食べられないなんて、なんて人生を無駄にしているのだろうか!

 

バターが溶け合ったホタテのスープにパセリを散らす。 その、えもいわれぬ香りのするスープににんにくの効いたバゲットをひたひたにつけて食べる喜びは何にも代え難い。 金曜日でなくとも神に感謝するほどだ。

 

寄生虫なんてものはホタテの稚貝にはつきものなのだし、三年前に購入した美顔器が埃を被って部屋の隅にあるように、無かったものとして話を進めることとする。 見た目を我慢しさえすれば美味しいスープが出る分、寄生虫は美顔器よりはかなりましなはずだ。

 

用意するのはホタテの稚貝、セロリ、パセリ、ニンニク、白ワイン、オリーブオイル、バター。

 

ニンニクはいつもの通りスライスよろしく、浅めの鍋に、弱火で熱したオリーブオイルで香りを油にうつす。今日はたっぷり入れよう。
ニンニクのいい香りがしてきたら、軽く殻を洗ったホタテを鍋に入れ(塩抜きのいらないところがホタテの優れたところの一つだ!)、白ワインで蒸し焼きにする。

 

殻が開いたら薄めにスライスしたセロリを投入し、バターをふたかけ。蓋を閉める。このときバターの代わりに、ギーがあると、なお良い。個人的に、一般的でない食材を勧めるのはあまり好きではないのだが、このギーだけは別だ。 バターよりも身体に良い上、何より香りが良い。 常温保存ができるため、わざわざ切らずにスプーンですくって放り込める気軽さもある。 あとは、気分が良い。

 

セロリが好みの感じになったら、スープの味を見て塩を加減し、パセリをたっぷり振って鍋ごと食卓に出そう。 バターを入れた料理は皿を温めておくか、鍋ごと出すかしないと油が固まり、舌触りが悪くなってしまう。

 

缶ビールをプシっと言わせ、半分ほど飲んだところでぱくつく。 もちろんビールのみならず、白ワインやウォッカも合う。 冷凍庫で冷やしたテキーラもなかなかだろう。

 

ニンニクを擦って焼いたバゲットでも、焼いたバゲットにニンニクを擦ってスープにつけるのでもいい。 このスープにバゲットのスライスを入れてチーズを放り込み、オニオンスープ風にするというアレンジも試みたが、やはりバゲットをスープにつけながら食べる方が、より食卓がにぎやかで良い。

 

ホタテをあさりにしても、ムール貝にしても美味しい一品だ。 ムール貝なら、缶詰の女王トマト缶を加えてトマト風味にするのもまた乙なものである。